遠距離恋愛で別れる主な理由は、大きく五つに分けられる。どれも、離れたあとの過ごし方しだいで重さが変わる。
- 会えない期間が延びて、熱が下がっていく
- 連絡の回数や熱量がかみ合わなくなる
- 近くにいる別の誰かに気持ちが移る
- 会いに行くお金と時間に疲れる
- この先の見通しが立たず、待てなくなる
共通するのは、終わりの日が見えないことと、すれ違いをためこむこと。その二つに手を打てば、距離は別れの決め手になりにくい。
彼に福岡への内示が出たと突然聞かされたのは、交際十か月目の冬。東京に残る私は、帰りの電車で別れの切り出し方ばかり考えていた。(遠距離なんて、続いた人を知らない)
それから一年半、羽田と福岡空港を何度も往復した。続いたのは、気持ちが特別強かったからではない。別れにつながる理由を、一つずつ先回りして小さくしていったからだ。
五つの理由を一つずつ取り出し、本当に起きそうかを事実で測る。起きたら何日で戻れるか、取り消せるか、自分の手が届くかも確かめてみよう。そこまで済めば、今日やる用事は一つに絞れる。
会えない時間が続くと、気持ちが冷めそう
会えるのは月に一度か、それ以下。画面越しの顔に慣れていくうちに、会いたい気持ちまで薄れていきそうで怖い。(次に会ったとき、前と同じ温度でいられるかな)
冷めやすいのは、次の約束がない時期
気持ちが離れやすいのは、会えない日数の長さより、次の予定が白紙のとき。いつ会えるかわからない待ち時間は、終わりのない我慢に変わる。我慢が続くと、会う楽しみより、予定を合わせる面倒さが勝ち始める。
二人が一番危うかったのも、彼の繁忙期で三か月先まで予定が立たなかった春だった。通話の回数が減り、話す内容も天気のことばかりになった。
冷める前には、予定と話題が変わる
会う日の相談を、相手が先送りし始める。通話から週末や先の話が消え、近況報告だけになる。この二つが重なったら、心が離れ始めた合図だ。
危ない時期は二つある。予定が立ちにくい相手の繁忙期と、先が決まらず一年を越える頃。あの春の二人には、合図が二つともそろっていた。
寂しさの大きさは、自分の予定でも変わる
寂しさを埋められるのは、相手だけではない。友達との約束や習いごとがある週は、離れている日数が同じでも時間の流れ方が違う。相手の予定は動かせなくても、自分の週末は自分で埋められる。
私が始めたのは、平日夜の料理教室。(最初は、寂しさを紛らわすためだった)通ううちに、会えない週にも話したいことが増えていった。
別れ際に、次の便を取ってから手を振る
会えた日の帰り際は、次の約束を決めるいちばんの好機。空港や駅で別れる前に、その場で次の便や新幹線を押さえてしまおう。
予定が読めないときは、日付だけ決めて便はあとで取ればいい。日付なら、ずれても二人で動かせる。
離れて三回目に会った日から、二人でこの決まりを守った。保安検査場の前で並んでスマホを操作するのが、いつの間にか別れの儀式になった笑
離れる前の週末に、最初の再会の日を決める
まだ同じ街にいるうちに、離れて最初に会う日だけ決めておこう。連絡の決まりは、離れてから一週間試して決めても遅くない。最初の一か月に待つ日が一つあれば、別れ際の空港もただの見送りになる。
連絡の頻度や温度が、だんだん合わなくなりそう
毎晩話したい側と、仕事のあとは一人で休みたい側。どちらかに合わせるたびに、もう片方に小さな我慢がたまっていく。返信が遅いだけで、心まで遠ざかった気がしてくる。
すれ違いの火種は、期待が言葉になっていないこと
私が揉めた夜を数え直すと、火種はいつも回数より期待のずれだった。三日に一度で満足な人もいれば、毎日ないと落ち着かない人もいる。どちらが正しいかではなく、その差を口にしないまま過ごすことがこじれのもとだ。
二人とも最初の三か月は、毎晩十一時の通話を当たり前にしていた。彼の残業が増えると寝落ちが続き、私は放っておかれたように感じていた。(疲れてるだけって、頭ではわかってるのに)寝落ちした翌朝には、決まって謝りのLINEが一通。
生活のリズムが違うなら、重なる時間を先に探す
残業の多い人と朝型の人では、落ち着いて話せる時間帯がそもそも少ない。お互いの一週間の予定を見せ合い、二人とも手が空く時間を探そう。二人に残ったのは、水曜と日曜の夜十時からの一時間だった。
連絡のルールは、一週間ずつ試せばいい
ルールを決めると、縛り合うようで気が重くなる。けれど一週間だけ試して合わなければ、また話して変えればいい。やり直せる前提なら、決めること自体はそれほど怖くない。
これだけは送る一通を、二人で決めておく
頻度を合わせるより先に、毎日これだけは送るという一通を決めよう。決めたのは、寝る前のおやすみスタンプ一つ。通話は、その一時間の週二回に減らした。
結局、回数を減らしたのに、意外と寂しさは軽くなった。来ない電話を待つ夜が、なくなったからだ。
相手の近くに、別の誰かが現れそう
彼の職場の飲み会の写真に、知らない女性が写っていた。それだけで、向こうの毎日に自分の知らない誰かが入りこんでいる気がしてくる。体の距離が、そのまま心の距離になりそうで怖い。
疑いの多くは、事実ではなく空白から生まれる
遠距離では、相手の一日のほとんどが見えない。見えない部分を、人は悪い想像で埋めやすい。写真一枚から、物語が一つできあがってしまう。
疑いが湧いた夜は、事実と想像を分けて書く
不安が膨らんだ夜に備えておこう。紙を縦に二つに分け、左に見たこと、右に自分が想像したことを書く。あの写真で私が左に書けたのは、飲み会の席に女性が一人いた、の一行だけ。
右の欄は、十行を超えていた。並べてみると、怖さのほとんどが想像の側にあった。
左の一行から言えるのは、同じ席にいたことだけ。心変わりの見込みを上げる事実は、一つもなかった。それなら、軽く聞いても失うものはない。
心変わりが本当でも、平日の暮らしは残る
万一、本当に相手の心が離れていたら。そのときは別れを選ぶしかないが、自分の暮らしまで消えるわけではない。
姉が普段どおり出社できたのは、遠距離の相手と別れて五日目だった。眠れない夜はその後も続いたが、仕事と友達は手元に残った。崩れるのは週末の予定で、毎日のすべてではない。
気になることは、尋問ではなく質問で聞く
疑う気持ちを抱えたままにするより、気になることはそのまま聞いてしまおう。飲み会どうだった?と聞けば、相手は話しやすくなる。誰と何時まで、と細かく確かめるほうが、二人の間に距離を作る。
写真のことは、次の通話で、楽しそうだったね、とだけ言ってみた。彼は、隣の部署の送別会だったと話し始めた。まさか、聞いてもいない席順まで出てくるとは。
交通費と移動の負担に、疲れてしまいそう
会うたびに、飛行機代が給料から消えていく。移動した週末の翌週は、月曜の朝から体が重い。正直言って、好きなのに会うこと自体が負担に思えてくる自分が嫌になる。
また私が行くの、と浮かんだら見直しどき
行き来がつらくなるのは、金額の大きさだけが理由ではない。毎回同じ側ばかりが動いていると、不公平さが少しずつ不満に変わる。その一言が頭に浮かぶ頃には、負担はもう片側に寄っている。
最初のうち、福岡へ飛ぶのは毎回私だった。三回続いたところで、交互にしようと切り出した。
負担は、数字にすると話し合える
なんとなく高いと感じている負担も、金額に直すと扱いやすくなる。早めに格安便を取れば、往復で二万円台に収まることが多かった。
時間も同じように数えてみよう。家から家まで片道四時間なら、一回会うたびに八時間が移動に消える。
月一回なら、年に三十万円前後。金額が見えてはじめて、どこを削るかを二人で話せるようになった。
中間地点で会う月を混ぜてみる
片方ばかりが動く形を変えるなら、間をとって会う手もある。東京からも博多からも、新大阪までは新幹線で二時間半ほど。ただ片道一万五千円前後かかり、格安便より高くつくことが多い。
大阪で会うのは、移動の偏りをならしたい月だけにした。移動を休む月は、通話をつないで同じ映画を同時に見る夜を作った。会えない月でも、楽しみが一つあるだけで一か月の重さが違う。
三か月分の移動を、二人で書き出しておく
次の三か月、誰がどこへ何回動くかを一枚の表にしよう。次の通話までに、自分の行だけ先に埋めて準備しておこう。交互に行くのか、中間で会うのかも、その表を見ながら決めればいい。
この先どうなるのか、ゴールが見えない
転勤はいつまで続くのか。結婚の話を出したら、引かれてしまうのではないか。終わりの見えない遠距離に、いつまで耐えられるのか自信がない。
いつまでと言えない我慢が、いちばん重い
区切りの日が決まれば、待つ日数は数えて減らせる。決まらないまま年を越すと、待つ気力のほうが先に尽きる。転勤のように期間がぼんやりした遠距離は、この重さを抱えやすい。
先の話を避けるほど、別れの理由は育つ
将来の話を出すと身構えられそうで、つい先延ばしにしてしまう。けれど話さないまま時間が過ぎるほうが、見切りの理由になりやすい。避けているあいだにも、不満の芽は静かに育っていく。
期待と違う答えでも、早く知るほど立て直しやすい
一番つらいのは、相手に戻る気も、こちらを呼ぶ気もないとわかること。それでも二年後に知るより、今知るほうが失う時間はずっと短い。答えがわかれば、自分の次の一年をそこから組み立て直せる。
ゴールは決定ではなく、目安で置いていい
将来の話が重くなるのは、一度で結論を出そうとするから。一年後くらいに、どちらかが動く。それくらいの目安で十分で、外れたらその月の通話で新しい日付を置けばいい。
一年後に住みたい場所を、一つだけ聞いてみる
聞き方に、結婚という言葉は要らない。一年後、どこに住んでいたい?と一つ聞くだけで、二人の見ている方向がわかる。
私がそう聞いたのは、転勤から半年たった夏。彼は少し考えて、東京に戻りたいけど、福岡も悪くないんだよね、と笑った。そこから生まれたのが、来年の夏ごろに私が福岡へ移る、という目安。
目安より一か月早く、私は福岡の会社に移った。東京を出るのが自分のほうだとは、内示の夜には思いもしなかった。
不安を口にしたら、重いと思われそう
寂しい、不安だ、と口にするたびに、面倒な相手だと思われる気がする。だから平気なふりをして、通話を明るく終わらせてしまう。
重く聞こえるのは、ためた不安を一度に出したとき
相手を困らせるのは、不安そのものより、ためこんだ末の爆発のほう。何週間分もの寂しさを一晩でぶつけられたら、相手は何から答えればいいか迷う。顔の見えない電話越しでは、強い言葉がそのまま刺さる。
あの時の私も、例の繁忙期の春に一度だけ爆発した。通話の途中で泣きながら、もう無理かも、と口にしてしまった。(え、今の私が言ったの)
翌朝、彼から届いたのは長いLINE。ため込ませてごめん、という一文で始まっていた。
主語を私にすれば、責める言い方にならない
連絡くれないよね、は相手を責める形になる。私は声が聞けないと寂しい、なら気持ちを渡すだけで済む。返事の中身は相手しだいでも、言葉の向きはこちらで決められる。
不安は、小さいうちに週一回だけ出す
日曜の通話の最後の五分を、気になったことを一つだけ話す時間にしてみよう。小さいうちに出せば、重い話になる前に片づく。
あの春のあと、この五分を二人の決まりにした。たいていは、来月どこ行く?で終わる五分。
理由はわかっても、続けるか決めきれない
別れる理由が見えても、自分たちが乗り越えられるかはまだわからない。思い当たる理由が多いほど、終わりが近い気がしてしまう。(迷うくらいなら、今のうちに終わらせたほうがいいのかも)
続けるかどうかは、三か月試してから決めていい
続けるか別れるかを、今日決める必要はない。三か月だけ、ここまでの手を一つずつ試してみよう。別れという選択肢は、三か月後もなくならない。
始める前に、三か月後に二人で続け方を見直す日を決めておこう。見直す日があるだけで、試す期間には区切りができる。
見直しの日は、紙と表に残った事実で決める
あの左右に分けた紙で、左の欄ばかりが増え続けている。この先どこで暮らすかを何度聞いても、答えが返ってこない。移動の表で、相手の行が三か月ずっと空白のまま。
一つでも当てはまり続けるなら、離れる決断は逃げではない。反対にどれも当てはまらないなら、迷わせているのは距離への怖さのほうだ。
今日は、次に会う日の候補を一つ送る
今日は、次に会える日を一つ、相手に提案しよう。来月の第二週末あいてる?の一文でいい。決まらなくても、送った時点で次の話が一つ動き出す。
離れて初めて福岡へ飛んだのも、この一文がきっかけだった。彼の返事は、空港まで迎えに行く、のひと言だけ。

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